傀儡の恋
05
プラントについても真実を隠さなければいけない以上、気を抜くことは出来ない。
そして、目的を果たすためにそれなりの地位を得なければいけない。
一瞬でも気を抜くことはゆるされないと言うのはとても息苦しいものだ。その事実をラウはプラントに来て初めて知った。
「今までも同じ暮らしをしていたつもりだったのだがね」
小さなため息とともにそう呟く。
「これから、もっと息苦しくなるかもしれないな」
プラントでは一応成人と認められる年齢ではある。しかし、それでもまだ一人前と認めてもらえないのだ。
だから、後見をする人間が必要らしい。
プラントに関する基本的な知識を学習し終わったところで後見をしてくれる人間に紹介してくれるというルールになっているそうだ。
それはありがたいことだと言える。
しかし、相手も人間であるから、どうしても相性が合うあわないということがあるだろう。その時はあきらめるしかないのだろうか。
それを問いかけても、誰も答えてはくれなかった。
つまり、その時はあきらめろと言いたいのだろう。
あるいは、早々に独立できるように努力するか、だ。
おそらく後者を狙っているのではないか。あるいは、つかえない人間をさっさと追い出すつもりなのかもしれない。
だからと言って逃げ出せる人間がどれだけいることか。プラントに逃げ込んだ時点で、帰る場所などないと言っているに等しいのだ。
「……何があろうと、ここで生きていかなければいけない訳だしな」
そう呟いた時だ。
「別に、そこまで気張らなくてもいいと思うが?」
苦笑混じりの声が耳に届く。
「……どなたでしょうか」
こちらにしてみれば死活問題なのに。そう思いながら聞き返す。
「ラウ・ル・クルーゼ君だね? 私はギルバート・デュランダルという。君の後見を任された家の人間だよ。父が来られなくてね」
そうすれば彼は人の良さそうな表情でそう言ってくる。しかし、それがどこかうさんくさく見えたのは自分の錯覚ではないだろう。
「そうですか」
あまり嬉しくない。そう考えてしまうのは第一印象が悪いからか。
「付き合ってくれるかね?」
そんなラウの内心に気づいているはずなのに、ギルバートはあえてそれには触れない。
「はい」
どのみち、自分に拒否権はないのだ。そう判断をして頷く。
ラウの動きを確認して、彼は歩き出す。そして、あらかじめ用意されていた小部屋の一つへと入っていった。もちろん、ラウもその後に続く。
「適当にしてくれてかまわないよ?」
さっさと椅子に腰を下ろしながら彼はそう告げる。
そう言われたのなら、とラウもまた腰を下ろした。
「とりあえずは、うちに来てもらうことになるだろうね。あぁ、安心してくれていい。無駄に広い家だ。お互いのパーソナルスペースは十分にとれる」
ギルバートはどこか楽しげな表情でこう言ってくる。
「一年、我慢してくれればそれでいい。その後、どうしてもだめならば君の住む場所は私が用意しよう」
さらに彼はこう付け加えた。
「ずいぶんと厚遇ですね」
ラウは疑いのまなざしで相手を見つめる。
「多少は成果を出さないとね。恥をさらすようだが、困ったことに、今まで二人逃げ出している」
父親のせいで、とギルバートは続けた。
「我が家としては、これ以上、失態を重ねたくないのだよ」
立場上、と彼は苦笑を浮かべる。
「……わかりました」
そういうことならば、お互いに相手を利用すればいい。その分、気が楽だ。そう思ってラウは頷く。
「君は頭の回転が早いね」
これはほめられているのだろうか。
「……あなたには負けると思いますが?」
そう考えながらもこう言い返す。
「そう言うところが、だよ」
彼は嗤いながら手を差し出して来る。それをラウは握りかえした。
これが、生涯の共犯者になるギルバート・デュランダルとの出会いだった。